「暖かい場所」」

 この間、よその街から来た若い人が、今までライブに来たミュージシャンの名前を見て「こんな何もない街に、なぜこんな凄い人たちが来るんですか?」と、不思議がっていた。
 確かにギャラは雀の涙ほどだし、これといっておいしい物があるわけではない。
景色がいいといっても、よそと比べてそれほど目を見張るほどでもない。
それが、なぜか断らなければいけないほど、多くのミュージシャンからライブの申し出がある。
中には中央でやればここの数倍ものギャラを稼ぐ人もいる。
なぜ来てくれるのか、こちらが聞きたいぐらいだ。
 あるミュージシャンに言わせると「ここは温かい」からだという。
先日も元「スターリン」の遠藤ミチロウのライブがあった。
「スターリン」は解散して二十年近くたつが、いろいろな伝説が語り継がれている。
それも、客席にブタの臓物を投げつけたとか、全裸で乱闘騒ぎを起こしたとか、ものすごい話ばかりだ。
 しかし、当の本人は至って気さくで、ライブが終われば話し好きの楽しい人だ。
打ち上げでも、お客さんが差し入れた地元のキノコで作ったキノコ鍋に舌鼓を打っていた。
きっとこんな素朴なもてなしが、旅を続けるミュージシャンにはうれしいのだろう。
 何もほかの場所と張り合う必要はない。
無理な背伸びなどをせず、いつもと変わらない温かい場所、そんな場所をお客さんとともに、いつまでもつくっていきたい。