「キープ・オン」」

 日本のロック草創期の重要人物、ナミさんこと「南正人」はメジャーシーンと正反対にいるため、表舞台に顔を現すことは滅多にない。
しかし、彼が今もまき続けているロックの種は、至る所でユニークな花を咲かせている。
 一九八八年八月八日、信州の八ヶ岳で八日間にわたって行われた「いのちの祭り」には三百三十三人の音楽家が出場し、一万人以上の人が訪れた。
だが、「原発といのちは共存しない」というテーマのためか、マスコミではほとんど取り上げられなかった。
 ナミさんは東京外語大に在学中、単身メキシコ行きの船に飛び乗り、二年間世界中を歩き回った。帰って来た日本は学園紛争の真っ最中。
権力に対して暴力で立ち向かうことの愚かしさを感じ、音楽を通じて何かを見つけようと歌いだした。
そのころの仲間に故高田渡や遠藤賢司がいる。
 しかし、折からのフォークブームにうさん臭さを感じ取ったナミさんはレコード会社との契約をけり、山の中の一軒家で細野晴臣らと名作アルバム「回帰線」(七一年)を生み出す。
その後も多くの表現者にリスペクトされ続けているが、メジャーシーンとは一切かかわることをしない。
 そんなナミさんとはもう十年以上のつきあいになる。
還暦を迎えたナミさんが先ごろ、自叙伝を出した。
タイトルは「キープ・オン」。この本を読むといつもナミさんの声が響いてくる。
「あきらめるな氏@前へ出ろ」