「ほんものの音楽」」

 以前暗いイメージを持たれていた芸人は、カタカナ名のコンビやグループが増え、今ではすっかり花形職業の仲間入りをした。
 同じように音楽の世界もビッグビジネスの仲間入りをし、ミュージシャンは「成り上がり」を目指す若者の、お手軽なあこがれの職業だ。
いい曲だからヒットしたのは昔の話。今は「これがヒットします」と、あおられたものを買わされているだけだが、本人は「みんなと同じものを聴いている」という安心も一緒に買っている。
宣伝と売り上げの曲線はほとんど同じだ。
 しかし、いくら大多数がそういう方向に流れても、「ほんもの」を求めるリスナーやアーティストはいつの時代にもいる。
「ジプシー・ギター」を名乗り八月に道内ツアーをする黄金井脩(おさむはルビ)もそんな一人だ。
 まだ三十代にもかかわらず、十代の頃はギターを片手に東京の盛り場を歌い歩き、「最後の流し」と異名をとる。
その後、ヨーロッパなどを放浪し、帰国後本格的なライブ活動を始め、そのユニークなスタイルは高い評価を受けている。
今年五月には、世界遺産である広島の厳島神社の高舞台で、現代音楽奏者として唯一演奏を許された。
 しかし、彼の目的はもちろん売れる音楽を作ることではない。
自分が自分であるための、そして聴く人となにかを分かち合うことのできる、そういう道具(もの)が彼にとっての音楽なのだ。