「さようなら渡さん」
十代のころ、東京に出て行った音楽好きの友だちから、いつもうらやましい話を聞かされていた。
「吉祥寺のソぐわらんどうタという音楽喫茶では、ソ猫まんまタというおいしいメニューがある」とか。
よくよく聞いてみると、それはかつお節をかけただけの文字通りの「ねこまんま」だったのだが、なぜかそこで食べた話を聞くと、なんともおいしそうに感じたられた。
ほかにも「屋台で飲んでいたら、隣に友部正人がいた」「高田渡がステージで熟睡していた」とか、アングラ・フォーク・ファンの自分にとっては、まさしくヨダレものの話ばかりを聞かされていた。
しかし、いくらうらやましがっても東京に出ていくことのできない身としては、ただ口惜しがっているのもあまりに口惜しすぎる。
そこで考えついたのは、自分の住んでいる町に、そんな場所をつくるということだった。
思いはいつしか形となって、勢いではじめたこの店も今年で二十二年目になる。
無我夢中でやってきたこの店には、当時のあこがれのミュージシャンたちが、たくさん訪れてくれるようになった。まさしく夢のようである。
今年、その中の大事な一人だった高田渡さんが、突然にこの世から去ってしまった。
何をどう悔やんでも仕方ないが、自分の店で何度か高田渡のライブをやれたことは、これからも大事な力となって残っていくに違いない。
ありがとう渡さん、たくさんのすばらしい歌と、楽しい思い出をありがとうございました。